宮森日記

まだ日が出ているうちに

ファンクラブについて(3) 桜草、路地裏のうさぎ、ブルートレイン

続き。

4.桜草

https://open.spotify.com/track/4OqhCz4CYpNzFhsviTDkQA?si=YPnKpaTfTcyWSO39752y5Q

ここからテンポの良い曲が続く。ワールドアパートが部屋の中を舞台とする曲だとすれば、桜草は部屋から出たり出なかったりと、相対的に舞台が外に向かう。しかし相変わらず孤独だ。好きなフレーズはこれ。

 

モノクロの部屋に色が灯る

消えかけてた僕を照らすように

 

鬱屈としたファンクラブのなかにも希望を歌う曲はある。桜草がその一つだ。もちろん括弧付きの希望ではあるが。

人間が自殺するのは絶望の底にいるときではない、と思う。一番死が近いのはそこからほんの少し回復した頃だ。灰色だった世界に少しだけ色がつきはじめ、未来を描けるようになった刹那、死が強烈な甘い匂いを放つ。

赤信号のときに事故は起きない。ハンドルの方向を間違うことがないからだ。青に変わった瞬間が最も危ない。僕たちは外の空気を吸い、ほんの少しの絶望と束の間の錯乱をそれぞれポケットに入れて、死に場所を探すのである。

桜草にはそういう趣がある。

 

公園のブランコにまたがって

この世界を揺らせば

何故か急に寂しくなって

君の名を呼ぶよ

 

 

5.路地裏のうさぎ

https://open.spotify.com/track/6uFoVVMtJt8XwzetfGzTcj?si=b44yzDD-Ssqf6yF9NoLQfQ

これもテンポの良い曲である。特にラスサビ前の間奏が死ぬほど格好いい。

月や太陽や星など宇宙的なイメージが散りばめられているが、テーマはやはり「退屈な日々」に「何もできないまま」の自分であろう。

好きなフレーズはサビ。

 

心の奥で白いミサイルが

弾けた跡は深いクレーター

退屈な日々にほら何度も

乾いた想いが僅かに浮かぶ

 

ゴッチは印象的な映像をつくるのが非常に上手い。今回は「白いミサイルが弾け」、「クレーター」ができる映像。あくまでその映像に意味が託されている。

「白いミサイルが弾け」。つまり何かの情動はあるのだけど、それはあくまで「心の奥で」完結している。この曲に限らず、ファンクラブ全体を通して、全ての事象があくまで「心の奥で」の出来事にみえる。燻る情動が発露を求めて彷徨っている。

ラスサビは少しフレーズが変わる。

 

乾いた想いが微かに光るよ

街を照らすよ

 

最後はほんの少しだけ発露を見出せたのだろうか。それともただの夢だろうか。

 

 

6.ブルートレイン

https://open.spotify.com/track/5ZrpIXZwxOjVJa3EBGx1cw?si=XyfFWGFxQySgO1OAIbnr-A

イントロが本当に格好いい。ドラムが非常に光る曲だが、どうやらドラマーからすると最も難しい曲らしい。

疾走感という点ではアジカンの全曲のなかでもトップクラスだと思う。なおかつ、ファンクラブの共通言語を完璧に乗せている。鬱々した感情やら迷いやら絶望やら、そういったものだ。もっとも、角度が今までとは少し異なる。ブルートレインでは鬱屈からの「逃走」が試みられる。

 

何処まで? 君は言う

それすら消えて無くなってしまうまで行きたい

 

しかしあくまで「行きたい」だけだ。本当に「行った」わけではない。行けるかどうか分からないのだ。何なら何処にいくのかも答えていない。けどとにかく、ここから逃げたいという想いがアップテンポな曲調に乗せられている。家出をして快速列車に乗っている気分になる。

ブルートレインとはかつての寝台列車(夜行列車)の通称のようだ。長旅の代名詞だったようであるが、新幹線などの台頭により2015年をもって全廃となっている。

 

嗚呼遥か遠く訳もなく

ただ続く焦燥

 

思春期以来ずっと僕の胸の奥には焦燥感がある。何に対する焦りかは分からない。どこに向かおうとしているのか、それもわからない。ただずっと何かに追われている感覚がある。だからこそ、この曲に気持ちがフィットする。家にいるときより電車に乗っている時のほうがかえって落ちつくのだ。

 

(続く)