最近二日に一度は鍋を食べている気がする。父が親戚からやたらと野菜をもらってくるからだ。一番美味いのは豆乳鍋。具をあらかた食べた後、締めにご飯を入れるかうどんを入れるかで迷う時間が実は好きだ。
サブスクを利用しているから、お気に入りのアルバムのディスクがぼろぼろになるなんていう風情のあることはまず起きない。けど、もしそういうのがあるとすれば、僕の棚にあるASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ファンクラブ」は間違いなく手垢だらけ。表紙もボロボロになっているに違いない。去年の初めくらいからずっとアジカンばかり聴いている。特にファンクラブは、聴けば聴くほど味わい深くなっていく。全曲に通底する仄暗い燻りみたいなものがそうさせているのだと思う。
ボーカルで作詞作曲の後藤正文(以下愛称のゴッチで呼ぶ)は、このアルバムを作っているときが一番精神状態が悪かったという。前作のソルファが大ヒットしたぶん、プレッシャーも大きかったのだろう。あるいはもっと根深い悩みがあったのかもしれない。
しかし同時に、このアルバムを経てアジカンは本物の「ロックバンド」になったとゴッチは考えているようだ。だからこそだろうか、ファンクラブには過渡期の「痛み」みたいなものがそのまま現れている気がする。
以下、一曲ずつ考察していく。とは言ってもこの歌詞がこう言う意味だろうとか、そういうことはあまりしない。ただ僕があまりにもファンクラブを聴きすぎた結果、楽曲ひとつひとつに思念が積み重なってしまったのでそれを出力したくなっただけである。
1.暗号のワルツ
https://open.spotify.com/track/6EMfKWvSY1crIxWj0RdyjT?si=d2Eq8znAQQmLvVKpIsvR2A
定石からすると一曲目に相応しくないようである。掴みどころのない三拍子の曲調に難解な歌詞。しかしアルバムを一本の小説だとするならば、最後まで読んだとき、これが一曲目でなければならなかったこと、これ以外にないことがわかる。冒頭のフレーズは一発で聴き手を撃ち抜く。
慌てなくたって何時か僕は消えてしまうけど
そうやって何度も逃げ出すから何もないんだよ
小説は一文目で決まるとはよく言うが、このアルバムの一文目としてこれ以上のフレーズはない。
個人的に好きなフレーズはこれ。
暗号のような塞いだ言葉
揺らいだ想い
拙い方法で放つ感情と
君の体温
そして最後のフレーズはファンクラブ全体を通底する主題だ(と僕は思う)。
君に伝うかな
君に伝うかな
君に伝うかな
君に伝うわけはないよな
伝えたいけど伝わらない、言葉にできない、言葉にしたくない、そのような想いを抱えることは人の宿命である。だからこそ古今東西の音楽や小説があるのだ。ゴッチがこのアルバムを通して今一度真剣にそのテーマにぶつかろうとしていたことがわかる。
2.ワールドアパート
https://open.spotify.com/track/61ssVRFKyHLe1vDetrh6VL?si=4cDXxAWGR5udCzwve9f-yA
個人的にはリライトに匹敵するエネルギーのある曲だと思う。この曲は次のアルバムにも繋がるような思想の迸りを感じる一方、やはり鬱屈とした燻りを基調としていて、歌詞通り「六畳のアパート」が舞台である。
好きなフレーズはサビ。盛り上がりが素晴らしい。
遠く向こうでビルに虚しさが刺さって
六畳のアパートの現実は麻痺した
目を塞いで僕は君を想い描いて
想像の世界で君も全部なくして
分かったよ
ここでいう「虚しさ」とはジャンボジェット機のことである。9.11はゴッチにとっても衝撃だったようである。ビルに飛行機が突っ込んでいく映像と六畳の自室とのコントラストはあまりに現実味を欠いていたことだろう。
上述のサビは2回繰り返される。このとき、聴き手は一度目の「分かったよ」がどうにも「分かってよ」に聞こえるなと感じる。そして2回目のラスサビははっきり「分かってよ」と言っていることに気づく。
僕としては、きっとゴッチはこれをわざと狙ってやっているのではないかと思う。
(続く)