asian kung-fu generation の曲はどれも良いけど、
一番楽しい曲はどれかって言えば、
やっぱり「君の街まで」だよな。
切なさだけで 悲しみだけで 君の街まで 飛べればいいのにな
ある朝、kito-kitoがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床で一房の巨大なぶどうに変っているのを発見した。
kito-kitoにはこの日、どうしても行かねばならぬ場所があった。どうしたものかと考えるkito-kitoは、ここらの一帯は坂道が多いことを思い出し、妙案を閃いた。身体を一粒ずつ切り離し、一塊のぶどう群となって転がってゆくという作戦である。
kito-kitoは早速ぶどうを一粒切り離す。刹那、激痛と共に、「喜び」の感情を失う。切り離したぶどうに「喜び」が入っていたのである。だがkito-kitoはもはや「喜び」を忘れているので、自分が何を失ったのかすら知らない。二粒目を切り落とす。「怒り」が失われる。三粒目、「好奇心」が失われる。四粒目、「誇り」が失われる。
五粒目、「苦痛」が失われる。このとき、切り離す痛みが消え去る。kito-kitoはこれは楽だと思い、立て続けに全てのぶどうを切り落としてゆく。
全てのぶどうを切り離した後、kito-kitoは一塊のぶどう群として坂道を転がってゆく。青紫色の甘い球体として、転がってゆく。
BGMは勿論「君の街まで」。
街の人々が驚いて振り返る。子どもがアイスをこぼす。
kito-kitoの群れは坂道を転がってゆく。
しかし悲しいかな、道中の至る所に障害が存在した。kito-kitoは次々と潰れていった。
「憧れ」が馬車に撥ねられ、「後悔」が岩壁に激突し、「愛しさ」が八百屋に突っ込み、破裂した。
水路は紫色に染まった。
君の街まで辿り着けたのは「切なさ」と「悲しみ」だけだった。
今日はデートの日だったのだ。